写真 左 : ソウキチ氏 , 右 : KEI
“プロとか趣味とかは割とどうでもよくて
僕にとって「音楽」って 一番素でいれる場所なんですよね”
2014年12月、当時レコーディング真っ最中のKEIと、その多忙なスケジュールの合間を縫って酒を酌み交わした時の言葉だ。
その時の瞳をキラキラさせた中学生のような表情が忘れられない。
そして次の言葉「僕らの音楽で、少しでも彼や彼女たちに元気になってもらえたら。LET IT BEのように、僕はなりたいから…」
その時の彼の眼差しは、先ほどとは打って変わってひとつ悲しみを乗り越えた男の目になっていた。
この中学生と大人の男の振れ幅こそが、Do'shi-low-to'z(以下:ドシロウツ)の音楽性の肝であると言っても過言ではないだろう。
その日から待ちわびること約半年、ついにドシロウツ待望の1stアルバム、『SAISON』が届いた。
今回はドシロウツのいちファンであり、KEIの友人でもある筆者が、未熟ながらアルバムの紹介をさせていただこうと思う。
早い話が完成したアルバムを聴いてもらえれば言葉なんて必要ないのだが、この稚拙な文がまだドシロウツを知らない人がCDを手に取るきっかけになれば、アルバムを聴いたファンにとってもドシロウツに対する理解がより深まれば幸いである。
#01.スプリングフェスタ
この曲がリリースされたのは去年の春頃なので耳の早いリスナーにはもはや説明不要だろう。
今回のアルバムは曲ごとのクオリティもさることながら、アルバムを通してのバランスも非常に考慮されたつくりになっている。
とりわけはじまりの季節を歌うこの曲こそ、アルバムのスタートを飾るにうってつけだ。
キャッチーさの中にも切なさを感じる名曲。ドシロウツにとってのアンセムの誕生。
#02.Bad Girl
こちらは一曲目と打って変わってかなりロックなナンバー。
それも同年代なら一発でわかる90年代の日本語ロックだ。世代だけあってAメロBメロサビの黄金律を完全に心得てる。
サビのリバーブがかったボーカルの英語の発音のギリギリさが実にROCKしてる。
#03.しゅごい
ここまでポップス、90年代ロックときてからの異色作。
KEIのデス声やセリフパートが聴けるのも新鮮な一曲。
ありきたりなハードコアかと思いきや途中からピアノが入ってくるなどアレンジのシャレもきいていて楽しい曲。
なにより「しゅごい」というフレーズのインパクト。カラオケで歌うと盛り上がること間違いなし。
#04.白夜
アルバムの中でも個人的に好みな曲。歌謡曲のエッセンスとオルタナティブロックの野蛮さがブレンドされてなんともいえない色香を醸し出している。
セックスシンボルでもあるKEIの魅力が存分に発揮された詞世界とボーカルの艶っぽさに女性ファンはノックアウト必至だろう。
#05.想いのメヌエット
付き合って間もないカップルを描いた、アルバム随一の胸キュンソング。クラシカルな美しい旋律とリズム隊が印象的。ストレートなまでに女々しい男心が、いつになく優しい歌声で綴られたミディアムナンバー。今回のアルバムの中でも最も等身大のKEIに近いような印象を受けた。
#06.HEART MOVING
個人的にお気に入りの1曲。
いわゆる失恋ソングなのだけど、腐らない爽やかさなリズムが胸に響く。悲しい別れもあるけど、それでも人と出逢うこと、心震える出来事を諦めない前向きな別れの歌。
"心震える人へ Heart moving やめないで 誰かを求めることを 焔のように 燃えた想いは 惜しまず焚きつけていこう"
アルバム屈指のキラーフレーズ。
切ないけど勇気もでるアクエリアスのCMとかにピッタリの曲だ。
#07.イルスパーリナイ-2014-
実にファンクである。
「考えるな。感じろ。」とはブルース・リーの言葉だが、この曲も同じ事を言っている。音楽とは即ちグルーヴであるということを雄弁に語っている。グルーヴィーであること、それは自分と音楽と流れる汗、それ以外すべて忘れるってことだ。イルスパーリナイ、それは「世の中の嫌なことになんかすべて居留守をかましてテキーラいれて踊り狂っちまえよ」ってことだ。そしてillsつまり病気ってことでもある。
ケータイ小説のように繊細なはずだったKEIが覗かせたデカダンスな一面に、この男はやはり一筋縄ではいかないと感じさせられた。
ちなみにクレジットはされてないが、阿部サダヲがゲスト参加している。
#08.DESERT MAGiC
エキゾチックな雰囲気の異色作。
ロックに民俗音楽を取り入れた斬新なサウンドがISSYのソングライティングの射程範囲の広さを物語っている。
この曲を聴いた時、リスナーは白昼夢に目が眩むだろう。目の前には明らかに蜃気楼たつ砂漠が広がっているのに、そこは確かに高層ビルのそびえ立つ都会。そこで群れをなすミイラはあなたかもしれない。
#09.レモンカナリアの鳴く夜
アルバム中ダントツで好きな曲。
てかマジでいい曲で、好きでもうカラオケでも歌えると思います。
いつになく渋みのあるエロティックなベースラインに、カナリアのメタファーであろうピアノの旋律。シンプルな構成だからこそ、最高にエモーショナルな1曲です。イエモンの『真珠色の革命時代』のセカンドカミングたる堂々たる名曲。リピート必至。
#10.VOLT
まさにタイトルどおり稲妻に撃たれてシビれるような、ベタに恰好良い曲。電圧のVOLTとBOLTのダブルミーニングで、モーメントに撃たれながらも、自分のネジはしっかり締めていろ。というKEIのストイックさが顕著に表出した純然たるロックンロール。どこまでも男臭く、疾走感のある1曲。ライブで盛り上がること間違いなしだ。
#11.two of…
友人の結婚式のために書き下ろしたというエピソードがある1曲。正直言うと恥ずかしさすら感じるほどにストレートなラブソングだ。そしてそれを臆面もなく奏でられることこそ、ドシロウツが同世代の他のバンドと一線を画するところだ。多種多様な音楽ジャンルの坩堝のようなアルバムだった今作の終盤に、こんなストレートな曲を配置するところが実に心憎い。こんな曲を贈られた二人は、幸せになる以外に許されないだろう。
#12.悲しみは幸せという名の嵐の中心
アルバム完成直後のインタビューでKEI自身が、一番の自信作と語った1曲。国境も人種も性別も職業も越え、持てる者にも持たざる者にも、モテる者もモテざる者にも、総ての人に向けられた普遍的なメッセージソング。いわばドシロウツ流All You Need Is Love。
先行配信されたMVでKEIの原風景が映し出されていることからも、彼等のこの曲に対する思い入れが伺い知れる。
"何もない日々をこえて 幸せに会いにいこうよ 歩けるだけ歩いた先で素敵なコトがきっとある"
散々捻くれたアルバムを作っておきながら、最後にはこの屈託のなさである。どうやらまだ中学生のKEIは残っているみたいで、僕は少しほっとした(笑)
アルバムのトリを飾るに相応しい多幸感に満ちた名曲だ。
-アルバム総評-
いかがだっただろうか?
ささやかながら、誠心誠意を込めてこの素晴らしい作品への恩返しをさせていただいたつもりだ。
実はこのアルバムには最後の最後で、彼等からファンへの嬉しいサプライズがある。※
それは是非あなたの耳で確かめてほしい。
『SAISON』を聴いた率直な感想として、若手アーティストのデビューアルバムとしては、良くも悪くも恐ろしく成熟しているところがある。
ビートルズがいきなり『ラバー・ソウル』でデビューしたようなものだ。
これは彼らがアーティストである以前に僕等と同じ熱心な音楽ファンであることが血と骨になっているとみて間違いないだろう。
カメレオンの如く曲ごとにガラリと色を変える変幻自在のスタイルは、アルバムとしては一聴すると統一性の無さすら感じるが、それこそがドシロウツという巨大なキメラの正体。時にはエロスの道化師となりリスナーを翻弄し、時には愛の伝道師となり世界を祝福するーー。その様は「ジャンルなんて何だっていい。皆を笑わせ、泣かせ、踊らせることができたら」という彼等の決意表明のようであり、デビューアルバムにして既に彼等がエンターテイメントの本質を捉えていることがわかる。もはやドシロウツというひとつのジャンルとして確立されたといってもいい音楽に、カテゴライズなど愚の骨頂なのである。このカオスの波に乗れるか乗れないかで聴き手のセンスが問われることになるだろう。
思うにKEIというアーティストは、レノンとマッカートニーの才能がデヴィッド・ボウイの身体でせめぎ合っているようなアーティストだ。
KEIは歌う。「その悲しみは幸せと言う名の嵐の中心」と。
3.11以降、絶望感と閉塞感の袋小路で完全に落ち込んでしまった日本の音楽業界に風穴をあけるといえば少し大袈裟かもしれない。だけど騙されたと思ってヘッドホンをつけて外に飛び出してみてほしい。きっとリスナーの心にドシロウツという極彩色の嵐が吹き荒れているから。
もしこの早熟なデビューアルバムにひとつダメ出しをするならば、それは筆者にとっていち友人だったKEIが、随分と遠い存在になってしまったことだろうか(笑)
次にKEIと酒を飲んで語り合える日はいつになるだろう。
この文章もそろそろ仕上げにかかった深夜、はやくも彼らの新曲『ELEGY』が届いた。
ドシロウツ初のエレクトロナンバーだ。
ISSYの衰えないソングライティングセンス、どんな曲も全力かつ柔軟に歌いあげるKEIのボーカルワークもさることながら、なによりもあれだけのアルバムを作っておきながら、自らの作風にとらわれることない真新しいドシロウツが其処で鳴っていることに驚く。
はやくも"二枚目"のドシロウツに期待してしまうのは、早耳の音楽ファンなら言うまでもないだろう。
自らに冠した"ど素人"という名がアイロニーになる日はそう遠くないと僕は確信している。
text by Sokichi Nishio
※編集部注:初回限定盤のみの収録
- 1ST ALBUM 「SAISON」クロスフェード -
TYPE - A - KEI VOCAL
TYPE - B - feat.初音ミク